【2017年10月21日】特別展「上杉家の名刀と三十五腰」(上杉博物館)
この記事は上杉博物館(山形県米沢市)にて開催された特別展『上杉家の名刀と三十五腰』を鑑賞した際のレポートです。
上杉博物館には、おととし9月以来の再訪ですね。この時は期間限定の特別展示でした。
[お客様からの熱烈な要望にお応えし] という文言が昨日のように思い起こされるなぁ。
さて今回は 、『上杉家の名刀と三十五腰』という企画展となっております。こちら米沢市 上杉博物館の後は、埼玉県立歴史と民族の博物館(埼玉県さいたま市大宮区)、佐野美術館と巡回します。
[伝国の杜]米沢市上杉博物館/:特別展「上杉家の名刀と三十五腰」
(2017年9月23日~10月22日)
www.saitama-rekimin.spec.ed.jp
(2017年11月3日~12月10日)
(2018年1月7日~2月18日)まもなく!!
ところでタイトルの三十五腰とは、四十肩の親戚ではないです断じて。
本展示の図録『上杉家の名刀と三十五腰』によると(表紙の「竹に雀」が美しい)、
「三十五腰」とは、上杉家の刀剣を記録した資料「甲簿 弐 刀剣之部」(以下『台帳』という)に記されている「御重代三十五腰ノ内」および「景勝公上秘蔵ノ御書付アリ」の語からなっているようです。
上杉家の刀剣を記録した資料は他にもあるのですが、いわゆる「景勝公御手撰三十五腰」とハッキリしたものは存在しないだろうとのこと。
上述の「景勝公上秘蔵ノ御書付アリ」の目録に記されている刀剣は28腰、このうち『台帳』にそれと照合できるのは12腰。一方、「御重代三十五腰ノ内」に記されている刀剣は27腰、景勝公御手撰と合致しているのは9腰。...35にはならないですよね。
そもそも、家祖である謙信公、藩祖 景勝公の2人が積極的に刀剣を求め愛好したというような記述すら見いだせないそうです。この辺りの考察について、図録の後半で諸先生方の「各論」として色々展開されているのでご一読ください。
ともあれ、今回展示される上杉家蔵の刀剣は以下のように分類することができそうです。
●上杉・長尾両家伝来の名刀:備前刀が多い(一文字、長船など)
●皇室・将軍家からの贈刀:五虎退吉光、来派など
●代々の藩主が所有した名刀
これでも網羅しきれないですけどね...
そろそろ当日のレポートに移りましょ。
前回と同様、仙台からやまびこに乗り、福島駅でつばさに乗り換えて米沢駅へ。今回は博物館まで徒歩で向かってみました。ちょうど台風21号が北上する直前、湿度が高くて予想外に暑かったです。
上杉神社へお参りし、代々のあるじ様にご挨拶を済ませた後、博物館へ!
やっほー2年振り! pic.twitter.com/LgiHelm8UH
— ナカアキ (@nkak0815) 2017年10月21日
特別展示・常設展スペース外のロビーにパネルと記念画。
謙信景光がやたら小さく見えるけど、ごこちゃん虎の分ゲタ履いてるからね、同じくらいの背丈でしょうか。
第2回「五虎退」を見ておととしの復習・今年の予習をしてから実際に鑑賞。帰宅後に第3回「謙信景光」で復習をするという流れになりました。
ゲームではまだお迎えできていない謙信君の声を、刀剣散歩で初めて聞いたとさ。貞ちゃん(太鼓鐘貞宗)と同じ目に遭ってんじゃん!
閑話休題。
さぁ、展示について説明していきますよ。
何せ今回は目録が多い! 刀剣、拵、甲冑のほか、由緒書きをはじめとした文書、仏像、戦道具などを合わせると、3会場でのべ108品目。
各会場で目録が異なるので、他では見られないものもありますよ。例えば米沢だと姫鶴一文字の刀身が見られない代わりに、その拵がここだけで展示されていました。
ここからは個人的に印象に残った展示について、いつものように私見を交えてお伝えします。
※No. は目録掲載順
13. 太刀 銘 守次(般若の太刀)
守次は青江派の刀工。茎尻に目釘穴(2つ重なった形)
14. 剣 無銘 禡祭剣(ばさいけん)
15. 短剣 無銘(豊後瓜実)
両刃、小さい!
17. 太刀 銘 国綱 《いがった!》
アナタ粟田口よね!? 肌立ちすぎじゃない? うねうねしすぎじゃない!?
内心、吉光の肌の印象ばかり根付いていたので面食らいました。これはすごい一振り。
22. 短刀 銘 備州長船住景光 元亨三年三月日(謙信景光) 《いがった!》
地肌が健全でピカピカのキラキラ。刃文も華やかで、帽子に向かって解けるさまが美しいです。
23. 脇指 銘 相模国住人広光 康安二年十月日(火車切) 《すき!!!》
ちょっとこの辺りからヤバイです、本展示。身幅が広め、ワタシ好みのバッサリ系です。沸、金筋、砂流しとダイナミックな肌模様。見ていて飽きません。
25. 太刀 銘 長谷部国信(からかしわ)
刀身は焼きが高く飛焼きも見られます。また茎が特徴的だなと思いました。茎尻にかけてほっそりとした形は三日月のようです。
58. 太刀 銘 守家(とくよう)
物打部分の蛙子丁子がウサギの耳のよう(コイツまたウサギに例えてるよ...)
59. 刀 無銘 正宗(大柿正宗) 《すき!!!》
上品と言うか、ずいぶん優しい肌の正宗だなぁという印象。マイルドだが正宗。キャプションにも「まろやかな沸」とあるんですよね。まろやかな沸ってなんだよと言われても、まろやかなんだもん...
84. 脇指 無銘 大進房 《すき!!!》
今回の大穴、もとい沼。
遠目にタナゴ腹のような茎が見えたので相州伝かな?と近寄ったが最後、どっぷり浸かりました。肌が! 沸がすごいの!
大進房は新藤五国光の弟子、日光山の僧、または伊豆走湯山の僧で、刀身の彫をしたとされています。この脇指を打ったのが大進房なのか、彫だけを施したのかはよくわかりませんでした。
刃表に倶利伽羅が彫られているんですが、浮彫の部分って立体的なままに保つというか、肌目が目立たないようにされているものじゃないですか。
この大進房、彫までべったり研がれているんです。龍とか剣までのっぺりとしちゃって、肌目が見える。それが逆にシルエットで倶利伽羅を表現しているようで、かえってオシャレに見えてきた。すごく格好良い、格好良くない???
火車切やからかしわは素晴らしいと前情報を仕入れていたのですが、この一振りには完全にやられました。帰路ずっと思い返してはニヤニヤしてたもん... 他会場にもお出ましするのでオススメです。
107. 短刀 銘 吉光(五虎退) 《すき!!!》
おととし以来二度目の鑑賞です。これまでに目を鍛えてきましたからね、この刀の魅力を前回より深く味わうことが今回の目的の一つでした。
いやぁ落ち着く... 大進房で乱れた心が鎮まるようです( ˘ω˘ )
吉光の上品な肌に、そばかすの元ネタとなったであろう地沸。二重刃はうまく見えたか、ちょっとわからないなぁ。刀身中ほど、護摩箸にかかる放物線のような沸が好きなところです。
ここまで、刀身ばかりピックアップしてきましたが、拵も良いものをたくさん展示していただいています。冒頭で触れた姫鶴一文字の拵をはじめとした優美な拵や、中には変わり拵なんてものも展示されています(姫鶴の拵は米沢のみですが)。
「上杉家の名刀と三十五腰」公式図録の表紙に美しい金具の上杉家の紋があります。この紋は【資料番号83 刀 無銘 行光 黒漆打刀拵】の拵に付いている金具です。この金具を作った宗寿は米沢藩のお抱え金工師だったそうです。※米沢・埼玉・静岡の3館でご覧いただけます。 pic.twitter.com/CQRDsN7bz3
— 米沢市上杉博物館 (@uesugi_museum) 2017年10月18日
これは図録を紹介するくだりで触れた竹に雀の紋ですね。鞘や鍔、目貫といった拵の鑑賞には単眼鏡必携ですぞ。
ちょっと羨ましいのが、埼玉県立歴史と民俗博物館、佐野美術館では「泥足毘沙門天立像」が展示されるんですよね。ちょうどBSプレミアムで『風林火山』を観ているので、タイムリーだなぁと。こうした、上杉家の歴史とか信仰、息遣いと共に鑑賞していくと、今回の刀剣展示もより深く味わえるんじゃないでしょうか。
おらよ、今回の成果だぜ!
— ナカアキ (@nkak0815) 2017年10月21日
牛肉どまん中は今夜のご飯です pic.twitter.com/lyAGRxeW4R
というわけで、ここまでご覧いただきありがとうございました!
牛肉どまん中美味しかったです!!(宣伝)