審神者日和

とうらぶから刀剣鑑賞にハマった審神者ナカアキのブログ

【2016年5月8日】 登米懐古館特別展 珍刀・宝刀《Part2》& 馬具(鞍・鐙)(旧ブログから転載)

* この記事は2016年5月に旧ブログ(Tumbler)に記載したものを転載しております。

 文中の刀剣に関する語句、説明等は当時のまま移しましたので、語法の誤りが散見されるかと思います。ご了承下さい。

 

序文

 これは登米懐古館(宮城県登米市登米町)にて4月16日より開催している、刀剣ならびに馬具の展示会の参加レポートです。

 懐古館では、同館所蔵あるいは個人蔵の刀剣の展示を定期的に行っており、また昨年度の特別企画展「わが家の珍刀・宝刀と戦国変わり兜・胴」のように刀剣以外の展示も非常に珍しいものを観賞できる特徴があるように感じます。
 今回、期間中のイベントとして刀剣・馬具の説明会があると知り…

 「あ、行くしかない」(既視感)

 以降本文では、「おっかなびっくりだった昨年とは違うのさ! じっくり観賞してやる!」と意気込んで高速バスに乗り込んだ在仙審神者のメモ、少しの解説と考察を記していきます。此度も長文となりますが、お付き合いいただければ幸いです。

 

 

 

本文

1. 展示されている刀剣について

 意気込んだ割に登米町にギリギリに到着したナカアキさん。説明会直前に登米懐古館へ立ち入ると、受付の方より「刀剣女子ですね!(断言)」いただきました。ありがとうございます…

 さっそく展示スペースに入り、説明会へ。

 本日は刀剣、および馬具として陣羽織、鞍(くら)、鐙(あぶみ)その他(護身用武具類)について二名の先生方に解説をいただきました。お二方には一点ごとに丁寧でわかりやすくご説明いただき、本当にありがとうございました。

 刀剣は全十八振りで、うち短刀一振り(藤原貞俊)の研ぎが間に合わず十七振りについて観賞しました。以降、いくつかピックアップしたいと思います。

 

〇 仙台藩のお抱え刀工、国包系 ― 三代源次郎(源二郎)の刀、初代国包・三代の合作の脇差(父子ではなく珍しい)いずれも江戸時代前期の作。大和伝保昌派の流れを汲む柾目肌が特徴。

 

〇 雙龍子(そうりゅうし)藤玉英 ― 初代玉英の脇差(幕末期)、二代玉英の短刀(明治初期)。脇差はいわゆる赤羽刀で、平成に入り研磨した結果、登米市文化財に指定された初代の最高傑作。短刀の銘は「藤」字の月の右に「原」が入る合字。水心子正秀の門下・大慶直胤に師事した。

 

〇 短刀 銘 信国 ― 山城系、室町時代初期の作、二代左衛門尉信国とみられる。備前のような写り(匂出来)でなく、小沸出来。

 

〇 長船祐定 ― 備前の長船派。刀(室町時代末期)と、無銘だが祐定作とされる脇差室町時代後期)。菖蒲造で皆焼刃の脇差は初めて見ました、格好良かったです。

 

〇 太刀 銘 長包、脇差 銘 豊州高田住綱行作 ― この二振りで大小(陣太刀拵)。本日のナカアキさんイチオシがこちら。
 脇差の鞘が特徴的で、栗型(下げ緒を通す箇所)が通常と逆側、刀の裏が表になる向きに付いている ― つまり右に差すようにできている。解説していただいた先生いわく、脇差を右に差し、太刀を左に佩いてさらに短刀を差した三振りを帯びていたのではないかとのこと。殺意ガッチガチやぞ…。
 拵の色合いがまた上品なんですよ。これは格好良いので、ご来館の際はぜひ見ていただきたいですね。

 このほか、献上打ち刀拵え(庄内献上拵え)一点展示。黒呂塗鞘の格式高い拵えでした。

 

2. 展示されている馬具、その他(護身用武具類)について

 こちらも思いのほか面白かったので、簡単にレポートしたいと思います。

 

陣羽織 ― 本日は、猩々緋蟹牡丹紋陣羽織(牡丹の花の両サイド、蟹の足のように茎が伸びる図案)など六点展示。

 

鞍(くら) ― 馬具の一つ、サドル。
 日本甲冑としての鞍は大きく二種類で、室町の頃までは肉厚な作りの軍陣鞍、江戸時代になるとやや薄い水干鞍へ推移したとのこと。
 鞍の名前の中にある「海有」「海無」とは前輪(馬の頭側)の構造のことで、下部にでっぱり(磯)があるのが海有(でっぱっていない上部を海という)、前輪にでっぱりのない平らなものが海無。本日の展示には、前輪がぷっくり膨らんだ「布袋鞍」があった(珍しい)
 螺鈿や蒔絵できらびやかに仕立てられた一品もあり、じっくり観賞させていただきました。

 

鐙(あぶみ) ― 馬具の一つ、鞍から左右一対を吊りさげて足を乗せる(鐙を履く)。

 甲冑を着た場合、脛当てが鐙を吊るすための鉸具頭(かこがしら)に当たるため、脛当てを切り代わりに革を当てたこともあるらしい。
 江戸より前は木製が多く、実用品として左右のない無双型も出回った(現存品が少ない)。後に知多鐙、京鐙、加賀鐙など華麗なものが現れる。

 

馬柄杓(まびしゃく) ― 馬上から水を汲むための柄杓で長い。こちらも螺鈿が施された綺麗なものがありました。

 

護身用の武具類 ― 展示スペースの真ん中ケースにたくさん!
 捕物道具(十手、乳切木)、軍扇(鉄扇)、馬針(馬の脚の瀉血用。珍しく大きめ)、兜割り、軍用の鉞(まさかり、蜂須賀家伝来のものも)などなど…
ただ軍用、護身用とは言えどもそれなりの人が使ったとされるものもあり、細工や彫刻が細やかであったりと面白いものでした。

 

3. 仙台藩ゆかりの刀剣が多い理由

 本日懐古館にお越しの諸先輩方から教わったことは多く、メモ取っておけばよかった…!と少々後悔しているのですが。中でも印象に残ったお話を。

 

 登米懐古館や塩竈神社博物館には何度か足を運び、刀剣観賞してきたのですが、とにかく印象深いのは宮城県(仙台藩)のお抱え刀工だったり、ゆかりのある刀工の刀剣展示がとても多いということ。裏を返せば、例えば正宗、備前、来といった著名なものをあまり見かけないということでもある。
 地元ゆかりの刀剣が多い件に関しては、かつて歴代の藩主が塩竈神社に太刀を奉納してきた経緯がありますが、著名な刀剣が少ない理由として考えられるのが、百万石とも六十二万石とも言われた仙台藩の困窮ぶりではないか、ということでした。ちょうど宮城県では、阿部サダヲ主演、羽生結弦出演(!)の映画『殿、利息でござる!』が昨日7日より先行上演されていますね。あの原作の舞台が江戸中期。その後も戊辰戦争、廃藩置県、太平洋戦争などで困窮する度に、名だたる名刀が流出、散逸してしまったのではないか。
 そうした中、県内外から地元にゆかりのある刀剣が出てくることがあるので、できる限り由縁のある所に置いておきたいという諸先輩方の働きかけがあってこそ、現在宮城県の刀剣が多く保存され、文化財に登録されているのでしょう。

 

 あまりこういうことを言うのもあれですが。ぶっちゃけ「実装されてる刀がいないから見るものなんてない、行かない」というのはすっごく損をしているかと思います。
名刀は名刀になるべくしてなったのでしょうが、その背景には刀工のみならず原料の産出、刀装具の職人(拵え一式揃えるために最低七人は必要とのことです)、流通と需要があって世に生まれ、また多くの方々の尽力があって現在に残ってくれているもの。
そしてそれなりの身分の者しか手にできなかったものを、比較的安価で(重要!)観賞する機会があるということ。ありがたい時代に立ち会えたもんですよ。

 うっかり審神者になっちゃったお歴々、刀剣見にいこうぜ☆

 

4. おわりに

 説明会後、参加された先生方、諸先輩方の雑談に刀剣女子(おばちゃん、そろそろ女子はしんどいじぇ…)と男子でお邪魔したところ、先輩のお一方が短刀を持参されていたので拝見いたしました。鎌倉中期の作とされる、地肌の美しい一振りでした。
 すると今度は別の方から合口拵えがポロッと。随所にべっ甲があしらわれ、鞘の生地には宇和島伊達家の家紋が… 雀のお顔が可愛かったなぁ。
 なんだかもう、この一コマで随分満足してしまったかもしれない、と思い返しつつ。

 

 こんな嬉しい驚きもあるんだ、審神者になっちゃったお歴々、刀剣見にいこうぜ☆(大事なことなので)

 

(転載分はここまで)

 

 こちらは当日の様子をまとめたものです。

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